聖なる夜のハッピークリスマス
街はもうクリスマスのイルミネーションで着飾っている。
本当だったら私も浮かれて楽しんでるはずなのに…。
視界がまた涙で滲んでいく。
「泣いてちゃダメ……彼が戻ってきた時に笑顔で迎えてあげるんだから」
そう呟くのは病院の個室。
そう、彼は入院している。
半年前、事故に巻き込まれて意識不明になった。
それ以来ずっと寝たまま目覚めない…。
周りの人が密かに言っている内容は知っている。
「503号室の患者さん もうあのままなんじゃないかしら」
「もう先生も手は尽くして後は待つしかないって言ってるらしいし……」
でも私は待っている。
彼と約束しているから。
――今年のクリスマスには驚くプレゼント用意するからな?――
……そういえば去年もそんなこと言ってて私は驚かなかったっけ?
あー……驚いたというより呆然としてしまったんだっけ。
思い出して苦笑してしまう。
だって去年のクリスマスに貰ったものは焼き芋だったんだもん。
よりにもよっていい雰囲気のときに焼き芋屋さんが通ってお腹が鳴っちゃって
彼が慌てて買いに行ったんだっけ。
今年はどんなプレゼントなんだろうと思ってた時に事故。
まさかこれが驚くプレゼントなんてオチ……認めないからね?
でも今日は一段とにぎやかねとカレンダーを見て気付いた。
今日は『クリスマス・イブ』なのだと。
病室の窓から空を見上げてみればそこには上弦の月。
まるでにっこりと笑っているみたい。
私はお月様に愚痴ってみた。
「とうとうイブじゃない……笑ってないで何かプレゼント頂戴……」
イブということもあり病室での宿泊を認められた私はいつの間にか彼の胸の上で寝てしまっていた。
病室が蒼い光で照らされたように感じて目を覚ますと、時計の針は深夜2時を回っていた。
「今、光があたってたような……?」
「月の光じゃないかな? きっと」
ふと隣から返事が戻ってきた。
「え……?」
振り向いて声の主を確かめてみる。
「おはよう……夜だからこんばんわ、かな?」
今の今まで眠ったままだった彼が目覚めていた。
私は驚いて声が出せないまま、ただ見つめていた。
「メリークリスマス……ただいま」
私は抱きついて泣いた。
ひとしきり泣いた後で笑顔で返した。
「メリー……クリスマス」
頭を撫でられながらふと思ったことを聞いた。
「驚くプレゼントってまさかこれじゃないわよね……?」
「そこまで計画して事故れる奴って居たらすごいよ……」
頭の上に汗マークを出してるような顔で答えられ、思わず笑ってしまった。
「じゃあ驚くプレゼントって何?」
目覚めたばかりでプレゼントなんて用意出来てるわけもない彼に意地悪してみた。
「ふっふっふ……よくぞ聞いてくれた」
意地悪をしたつもりだったのに何故か彼は嬉しそうに笑っている……何故だろう。
今度は私の上に?マークが出ていることだろう。
「綾……君が好きだ 付き合って欲しい」
……一瞬の沈黙。
……ぇ? 今何て……?
「もう一度言うぞ 君が好きだ、付き合って欲しい」
私は声にならない声で叫んでいた……らしい。
顔中真っ赤にしておたおたしてる私を見て彼は嬉しがっていた。
悔しかったので、赤面してて意味がないんだけど態度はでかくしてみた。
「う、うん 仕方ない……付き合ってあげようじゃないか」
「やったー ありがとう!」
彼に抱きつかれてあわあわしてる私に声が聞こえた気がした。
――メリークリスマス――
はっと窓の外を見てみると、お月様が笑っていた。
……メリークリスマス さっきは愚痴ってごめんね?
お月様から奇跡のプレゼントを貰った上に、彼からもプレゼント。
私の片思いの恋は今日、終わった。
明日……ううん、今からは愛が始まるのよ。
やったーー!!