あなたが私の…
「あなたが私のシンデレラか」
起動したばかりの王子様が私に問いかける。
私は静かに頷く。
「証を」
認証を求めてきた王子様に私はさっき登録したキーワードで答える。
「王子様」
王子様からピピッと音が聞こえた後、跪く。
「声紋による認証、クリア……イエス、マイシンデレラ」
目の前で跪いているのは私の自動操機『王子様』、やっと私も戦う準備が整った。
ここ、おとぎの世界では基本一人一役だけど、たった一人だけ異なる人がいる。
それが魔女。
たった一人で、いくつものおとぎの話に魔女として登場する。
良い魔女、悪い魔女、すべて彼女一人が演じていた。
その彼女が3年前、突然暴走したことから全てが始まった……そう、彼女がすべてのおとぎの話を従えようと、暴挙に出たあの日から。
最初はすぐに騎士たちが取り押さえるだろうと誰もが思っていた。
だが、彼女は何体もの自動操機を動かし、騎士たちを全員倒してしまった。
彼女を止めることが出来る人が誰もいなくなった、そんな絶望の中、白雪ちゃん、赤頭巾ちゃんが数年の時を経て、自動操機を開発、起動した。
以降、今日まで魔女側の勢力と拮抗を続けている。
でも、これでやっと私も戦える、争いを止めることがきっと出来る、そう考えた時だった。
乾いた音がほほを掠めた。
振り向くとそこには赤頭巾ちゃんがいた。
「赤頭巾ちゃん? 私だよ? シンデレラだよ?」
赤頭巾ちゃんの前には、狙撃型自動操機『猟師』が私を狙っていた。
そんな光景が理解出来なくて、私は赤頭巾ちゃんに尋ねた。
一瞬の沈黙、そして『猟師』から放たれた2発目の銃弾が私を捉える直前、『王子様』が私を護る。
「マイシンデレラ 指示を」
私には何が何だかわからず、戸惑っていた時だった。
私の後方、天井を突き破って何かが落ちてきた。
「シンデレラ……赤頭巾は洗脳されてしまったの」
煙の中から最初に出てきたのは自立防衛操機『7人の小人』を展開している白雪ちゃんだった。
そしてその後を追うように、赤頭巾ちゃんの強襲型自動操機『狼』と、押さえ込もうとする白雪ちゃんの突撃型自動操機『王子様』の姿が出てくる。
「彼女はお婆様を魔女側に押さえられ、捕まった……そして今は洗脳され魔女の忠実な僕となってしまっているの」
恐らくここまで戦いながら逃げてきたのだろう、白雪ちゃんの服はすでにぼろぼろだった。
私たちのことはもう覚えていないと言われ、信じられずに赤頭巾ちゃんを見つめる。
その間にも、『猟師』からは次々と銃弾が放たれ、私の『王子様』がその弾を打ち落とす攻防が続いていた。
「赤頭巾ちゃん、私だよ シンデレラだよ? 戦いが終わったら、またみんなでピクニックに行こうねってこないだ約束したばかりじゃない」
震える声を抑えながら、赤頭巾ちゃんへ呼びかける。
「無駄よ……私たちの声は一切届かないの」
何を言っても生気の無い目で私たちを見つめる赤頭巾ちゃんに、悔しそうな顔を見せる白雪ちゃん。
ここにくるまでに彼女も必死になって呼び掛けたのだろう……胸の前で組んでる腕に込められた力が、悔しさを物語っている。
「ここにいるのが白雪ちゃんで……白雪ちゃんからも呼ばれたでしょ? 3人でまた遊ぼうねって」
白雪ちゃんの名前にかすかに反応があったことを見逃さなかった私は、必死に赤頭巾ちゃんの名前を叫んだ。
赤頭巾ちゃんが泣きながら、攻撃をしてきた。
私たちの知ってる赤頭巾ちゃんは、まだここにいる、そう確信した私は『王子様』に指示を出す。
「王子様、ガジェット【ガラスの靴】射出」
王子様の背中から、ホバータイプの靴が射出される。
そう、私の『王子様』はいろいろなガジェットを搭載させた、操機を扱う操機、だから開発が遅れた。
ガラスの靴を履いた私は、『猟師』の注意をひきつける。
「これで王子様の護衛なしでも私自身が戦える……王子様、赤頭巾ちゃんを捕まえて」
命じられた『王子様』は、赤頭巾ちゃんを捕まえるために、旋回したりジャンプしたりの行動を開始した。
『猟師』の攻撃をぎりぎりでかわし続け、赤頭巾ちゃんを捕まえるタイミングを待ち続ける。
「マイシンデレラ 目標を捕まえた」
赤頭巾ちゃんの肩を両手でしっかりと捕まえたことを確認した後、『王子様』へ指示を出す。
「ガジェット【0時を告げる鐘の音】」
『王子様』の顔が反転し、裏が表に出てくる。
その顔は巨大なスピーカー2つ。
そのスピーカーからけたたましい鐘の音が鳴り響く。
「……これでだめなら打つ手が」
ない、そう言おうとした時だった。
「目覚ましの音にしては大きすぎよ」
泣きながら笑っている赤頭巾ちゃんがそこにいた。
「おかえり、赤頭巾ちゃん」
そう、最後のガジェットは特定の高音域を大音量で放出することで洗脳を解くためのガジェット。
成功してよかった、ほっとした私はその場に崩れ落ちた。
争いに終止符を打つ鐘の音が鳴り響いたのはそれから数日後のことだった。