• 第零話 全ての始まりへ

  •  大陸の真ん中に位置する寿恩国、その心臓部といえる都、央都。
     その央都に位置する街、桜花街。
     この街では手に入らない物がないと言われる程、旅人と共に物資が集まってくる。
     簡単に外観を説明するならば、中心に大噴水を備え、そこから東西南北に幅六mの大通りが走っており、そこに碁盤目状に脇道が走っている統制された街である。
     噴水から南へ伸びる大通りを『朱雀通り』、北へ延びる大通りを『玄武通り』、西大通りが『白虎通り』、東大通りを『青龍通り』と名づけられ、全ての大通りは勿論の事、脇道も夜になっても人が絶えないこの街を『不夜城』と呼ぶ者も多い。
     大噴水の内回りでは、露店を開き世界各地の名産を店頭に並べる商人、それを品定めする住民、旅人で賑わいを見せ、外回りには旅に出るのに必須な道具を並べている店舗が立ち並ぶ。
    「東蘭国名産の魚の干物だよー、携帯食に最適だよー」
    「こっちは奉西国名産の牛の干し肉だ、噛めば噛むほど味が出る逸品だ」
     あちこちからそんな商品を売り込む声が響いてくる。
     人ごみの中、ローブを深々と被った一人の男が一人愚痴る。
    「兄さんは一体何処に……先に降りるとこれだ……」
     フードの部分を下ろし、辺りを見渡すが、探している人物は見つからないらしく、深いため息を一つ吐くとフードを戻し、人ごみの中にまた紛れていった。
     賑わい溢れる中、時間は進み、夜の闇が辺りを覆い始めた頃、玄武通りから青竜通りのほうへと繋がる路地にある酒場『胡蝶亭』はいつもと変わらぬ賑わいを見せていた。
     明日からまた始まる旅の準備に余念がない者や今日の売り上げに満足げな商人、旅先の話に耳傾ける者、色々な者で賑わっている。
     そんな中、ただ一人の男だけは違っていた。
     入り口を見ていたかと思えば、酒場を見渡し、みんなの笑顔に満足げな笑みを浮かべ、また入り口を見ては少しの酒を飲む。
     そんなことを繰り返していた。
    「あ……そういえば場所を言ってなかったな……まあたどり着くだろう……きっと」
     失敗したなぁという顔を一瞬浮かべるが、まあいいかと開き直り、荷物から月琴を取り出し、静かに弾きだした。
     最初それは、ただの音に過ぎなかった。
     段々と纏まった音色になり、美しい旋律を奏で始めた頃、周りの雰囲気が変わった。
     会話の音が静まり、誰もがその美しい旋律に惹かれ始めていた。
     そして、全員が耳を傾けた頃、旋律は曲へと変わった。
    「これより歌うはある兄弟の歌、揺らぐこと無い信念を持って世界を旅した者達の歌」
     男はそう言うと、静かに歌いだした。

     〜ある兄弟の哀しい物語
     世界に絶望した兄の怒り
     愛を信じた弟の希望
     二人の激突は哀へと変わり
     世界を包む
     二人がもう一度笑いあえる日を
     信じた弟の希望
     それは4つの光
     その光は受け継がれていく
     哀しみをとめる4つの光
     受け継ぎし者たちの光
     語り続けるは我が使命
     世界に愛が溢れていることを
     伝えていくために〜

     いつしか酒場には人が溢れかえっていた。
     男が奏でる旋律が、男が歌いだした曲が表へ漏れ、人々が集まってきていたのだ。
     男は月琴を弾き続け、歌い続けた。

     〜忙しくても今だけは聞いておくれ
     手を休めて、耳を傾けておくれ
     心を静め、そっと聞いておくれ
     貴方が人を愛することに
     絶望していないのなら
     貴方のために歌い続けるから〜

     澄んだ音色、静かな声に時が経つのを忘れ、皆が手を休め、ただ静かに聴いていた。
     不夜城の一角で静かに歌は続いていく。
     すべてが始まったあの日へ時を戻すかのように…。

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