第弐話 新たな禁軍
寿恩国が出来てから二百と五十年、寿恩王の座は第六代目の黄が継いでいた。
その黄には双子の息子、龍と雲がいる。
兄弟は日を増すにつれ、才能の片鱗を覗かせていった。
二人が18歳の時、ある企画が行われた。
武闘大会の開催である。
この武闘大会は以下の通りのルールが設けられた。
一つ、勝負の決着は相手が気を失うか又は降参を告げれば勝負あり。
武闘場から落ちた場合、失格とする。
一つ、不殺。 相手が死亡した場合、失格とする。
殺し合いが目的ではない。
一つ、得物は各自己の得意とする武器。
※弓、銃は物理矢、物理弾のみ許可。 魔法矢、魔法弾は武ではない。
魔力付与は問題ないとする。 但し、結果として相手が死亡した場合、失格。
一つ、勝ち抜き戦とする。
一つ、武闘場は十五m四方、高さ三十cmの岩畳。
これに、兵だけに留まらず、国中の腕自慢が参加をした。
うまくいけば地位が手に入るかもしれない、そう思ったからだ。
己の力試しにと、龍と雲の二人も参加した。
得物は龍が二本の刀、雲が十文字槍だった。
準々決勝、準決勝と苦戦しながらも、二人は勝ちあがっていき、とうとう決勝で二人が対戦することになった。
準決勝より一時間後、決勝戦進出者が呼ばれる。
「両者、前へ」
二人は武闘場中央へ立つ。
「優勝は俺が貰うぞ、雲」
にやっと笑い、勝利宣言をする龍。
「やってみなければわかりませんよ?」
スッと目を細め、微笑む雲。
「両者、位置へ」
審判の声で、中央から端へと下がる。
龍は無形の位、対する雲は左半身で、肩幅より少し大きめに両足を開き、腰を落とし、右手で槍の真ん中を持ち、地面と平行に、体に垂直に構えた。
「決勝戦……始め!!」
開始の合図と共に、まずは龍がまっすぐに突進して、仕掛けた。
それを迎え撃とうと、雲が突きを放つが、それをかわし抜刀後跳躍、数mの高さからの二刀の振り下ろしへ繋げる。
突きをかわされ、頭上からの一撃に対し、槍の柄で防御体勢をとる。
「普通の槍じゃ防げんぞ!?」
甲高い音が響き渡り、辺りが静まる。
「ほぉ、鋼だったか……ならば!!」
二刀による薙ぎ、切り上げ、突き、袈裟斬りと連撃に次ぐ連撃の猛攻に対し、槍の穂先、石突の部分で冷静に凌いでいく。
凌ぎきった直後、今度は雲が攻撃に転じる。
「今度は僕の番ですよ、兄さん」
一回、二回三回……六回の突きを放つも、それを紙一重でかわされていく。
「それなら……ていっ!!」
連続突きから一転、突然薙ぎ払いに転じる。
「くっ!!」
点の動きから、横の動きへの突然の変化にも関わらず、ぎりぎりでそれをかわし、後方へと、飛んで追撃をかわす。
「やりますね、兄さん」
「お前こそ強くなったな? このままじゃ埒があかなそうだ……互いに次の一撃に賭けないか?」
口元に笑みを浮かべ、互いに得意の一撃をもって勝負つけようと誘う龍。
「いいでしょう……魔力付与もありで」
微笑み、申し出に応じる雲。
「こぉぉぉぉ…」
納刀をし、右手で左腰、左手で右腰の刀を順手で握り、前に出した右足のつま先へと重心をかけるように、膝を曲げて溜めを作り、前屈みの体勢から突進、居合いへと続ける構えをとり、魔力を高めていく。
「はぁぁぁぁ…」
槍を腰の位置に構え、穂先を龍に向け、腰を落とし、後ろに下げた右足へ重心をかけるように膝を曲げ、十分な溜めを作り、左手は照準と反動の溜めを作る為に穂先へ沿わせて構え、同じく魔力を高める。
水の魔力を帯びて青く染まりつつある槍からは、高まった力が穂先から石突へと螺旋を描くように具現化し、風の魔力を帯び白く発光していく刀には、同じく高まった力が鍔から刃先に向かって噴きあがるように具現化していく。
「いかん」
あまりにも高まりすぎた魔力に、この闘いの結果を予測した国王が、立ち上がる。
「二人を止めねば!!」
座席に置いてあった自分の武器である杖を手に取ると、闘武場へ飛び降りる。
「いざ…勝負!!」
二人の声が重なり、己の信じる技を繰り出そうと動き出す。
龍と雲が接触する直前、杖を片手に黄が二人の間に飛び込むと、火の魔力を帯び赤く染まった杖は二刀を受け止め、左手にはめている腕輪は土の魔力を帯び黒光りし、槍を掴んでいた。
「止めぬか、馬鹿者!!」
そのまま二人を場外へと吹き飛ばす。
「このまま大会は終了!! 二人は後で私の部屋に来るように……」
それだけ言い残し、黄は奥の通路へと下がっていった。
「いたたたたっ……父上の付与は相変わらず強いな」
吹き飛ばされた場外から、腰を押さえつつ立ち上がる龍。
「父さんのあれは規格外でしょう……」
衝撃が強かったせいか、起き上がれず大の字に倒れたまま、空を見上げて愚痴る雲。
しかし、二種同時付与の力を使う為の代償を、二人とも知らなかったのだ。
一人、通路を歩く黄が突然、よろめき血を吐く。
「ぐふっ……」
必ず使った力の分だけの生命力を、代償として削られる禁忌の力、それが二種同時付与だった。
先ほどの二人を止めた反動が、還ってきたのだ。
「私の命が尽きる前に……二人を見極めねば」
そう呟くと、微かに足を引き摺りながら、自室へと帰っていく。
「父上、遅くなりました」
よほど腰を打ったのか、まだ腰をさすりながら苦笑している龍が現れ、そう時間を置かずして雲が現れた。
「先ほどはすみませんでした…」
何処も体を撫でたりなどはしていないが、動きが何処かぎこちなく、体から微かに膏薬の香りが漂ってくる。
「そこまで強く弾き飛ばしたつもりはないのだが…まあ、よい 二人とも座りなさい」
ちょっとやりすぎたかと軽く反省しつつ、二人を席へ座らせる。
「禁軍を二つの師団にわけ、さらに二つの旅団にわけた上で、各師団長、旅団長を据える」
「四つの旅団とは……どのように?」
急な話に驚いてはいるが、出来るだけ冷静に質問をする龍。
「刀剣のみで構成される剣軍、魔法兵のみで構成される魔兵軍の二旅団を纏める鬼師団、槍のみで構成される槍軍、弓のみで構成される弓軍の二旅団を纏める魔師団だ」
何か言おうとした二人を制し、続ける。
「剣軍、槍軍の旅団長、およびそれぞれの師団長にはお前達二人になってもらうぞ、よいな?」
最早、何を言っても変わらないであろう決断に大人しく従うことにする龍と雲。
翌日、禁軍の新たな編成が発表され、それに伴い、二師団長、四旅団長も発表された。
武闘大会決勝進出者である龍と雲、そして準決勝で敗れた二人の男だった。
龍に負けたのが、魔力ではなく魔法を己に付与して闘っていた男、飛。
そして雲に負けたほうが、弓の名手の伍慎だった。
剣軍、魔兵軍にはそれぞれ鬼という文字が足され、剣鬼軍、兵鬼軍となり、槍軍、弓軍には魔という字が足され、魔槍軍、魔弓軍と命名された。
だが、この新編成が後の悲劇へ繋がることはこのとき、誰にも予測出来ていなかった。
何時の時代も古きモノから新しきモノへ移り変わる。
互いを思う心がすれ違う時、悲劇の扉は開かれる。
すれ違い始めたのは何時の頃か、それが判った時、誰もが願うだろう。
時よ、戻れと…。